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【中編】食べると体重が減り続ける料理を出すメイドカフェ【タイムリープ】



「SCP-122-JPの問題の多いメイド喫茶」 は"mary0228"作に基づきます。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-122-jp
この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下で作成されています。
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス

当作品は『SCP-122-JP 問題の多いメイド喫茶』、及び、『運命の巻戻士』をクロスオーバーさせた、個人によるファンアート(パロディ作品)です。
ファンが楽しむことを目的とした作品であること、ご理解の上、閲覧を願います。


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 9回目。
 クロノはターゲットを追い掛けて走り出す。
「人数が多いと返って警戒させちゃうかも知れないから……、スマホンとアカバは店の人に話を聞いてみてくれないか!」
「おいクロノ! ……しゃあないのう、あんな妙ちくりんな店、入りたないが……」
 今度は、二手に分かれて行動することになった。クロノはターゲットを追い、アカバたちはメイドカフェでの聞き込み。

 カララン、カララン、と、高い音のベルが鳴る。それと同時に、
「お帰りなさいませ、お坊ちゃま!」
と、元気で可愛らしい声と笑顔が、アカバを迎えた。
 アカバは、あまりの居心地の悪さに、チラチラと店内を視線だけで見回す。パステルの色味の明るい店内は、テーブル席のみで構成されており、ほとんどが二人掛けだった。そして、ところどころの椅子には大きなぬいぐるみが座っている。
「ご帰宅お待ちいたしておりました! さぁ、私がお席にご案内いたします!」
 ターゲットについて、聞き込みに来た訳だが……、メイド風の姿の従業員は、満面の笑みを向けると、アカバを席へと案内する。慣れない雰囲気に飲まれてしまったアカバは、結局、口を開く前に着席することになった。
 何も注文しないで聞き込みが出来る雰囲気ではなさそうだ。
「スマホン、こういう店はサッパリ分からん。サポートしてくれ」
「大丈夫ですよ! 先程、説明した通り、飲食の注文に関しては喫茶店と変わりません。とりあえず、何か飲み物でも注文して、それとなく話を聞いてみましょう」
「そうじゃな、じゃあ……」
 これまたファンシーなメニュー表を開きながら、アカバは手を上げて、注文いいか? と従業員を呼んだ。
「まぁ、いけませんわ、お坊ちゃま。私たちをお呼びになるときは、このベルを鳴らしていただきませんと」
 従業員の言葉に、アカバは、意味不明、という視線を向ける。しかし、従業員は、それが全く気にならないようで、話を続けた。
「次からは、ぜひベルを鳴らして、私たちを呼び付けてくださいませ。さぁ、お坊ちゃま、本日は何になさいますか?」
「あー……、えーっと……、じゃあ、……、んん、真っ赤な、……ハートの雪降トマトジュース……」
「かしこまりましたっ、本日は、お食事はいかがいたしましょう?」
「いや、わしは食事をしに来た訳じゃないんじゃが……」
「まぁ、お坊ちゃま、今日はご気分が優れないのでしょうか? お食事をなさらないなんて、私、心配です……」
「あ、あ~~! じゃあこの、くまたん妖精のドキドキオムライスも一緒に!」
「かしこまりましたっ! ところで……」
 完全に店の従業員のペースに飲まれてしまっているアカバに、スマホンは呆れていた。が、従業員の笑顔に気圧されて、スマホンが会話に介入することが難しかったのも事実だった。

「ちょっとアカバさん!」
 少しばかり会話をした後、従業員はようやくアカバから離れていった。会話といっても、本来の任務に関することはまだ何も話ができていない。スマホンはそのことを怒っているのだ。
「何の為にこの店に入ったと思ってるんですか!」
「そう言うが、スマホンも何もできんかったじゃろうが」
「お坊ちゃまっ! 真っ赤なハートの雪降トマトジュースと、くまたん妖精のドキドキオムライス、お待たせいたしましたっ!」
「「!?」」
 一言、二言、話したところだったろうか。
 たったそれだけの間だったというのに、注文の品が運ばれてきた。トマトジュースは、ただ注がれただけではなく、グラスの縁に塩が付けられており、ひと手間掛けられている。オムライスにしてみても、ケチャップで丁寧に絵が描かれているし、サラダも丁寧に添えられたりと、このスピードで出せるものではないだろう。
「なっ……、いくら何でも早過ぎじゃろうが。どうなっとるんじゃ?」
「う~ん、冷凍食品にしても早過ぎますね。一体、どうやって準備してるんでしょう?」
「もうっ! おぼっちゃまってば、何をおっしゃっているんですかっ? 私たち妖精さんの魔法で、お坊ちゃまのお食事をご用意しているんですよ? ほら、お坊ちゃま、オムライスが更に美味しくなるように、私が魔法を掛けてあげますね。モエモエキューン!」
「………」
「お坊ちゃまもご一緒にっ! モエモエキューン!」
「も、もえもえ……」
 やはり勢いに気圧されているアカバは、従業員の言葉に従って復唱するのだった。
「さぁ、お召し上がりになってっ!」
 大きな両目が、アカバを見詰めている。しかし、このまま場に飲まれ続けているのでは話にならない、と、アカバはトマトジュースを一気に煽った後、聞き込みを、
 する、はずだった。
「あ、え、ちょ、アカバさん……っ!?」
 スマホンの戸惑う声など聞こえないかのように、アカバはオムライスにがっついていた。
「ちょっとアカバさん! 何してるんですか! 従業員の方、厨房に戻っちゃいましたよ! 聞き込みをしないと!」
「…………」
 アカバのすぐ側まで寄り添って、耳元で叫ぶ。しかし、それでもまだアカバに声は届いていないようだ。がつがつ、と、一心不乱にオムライスを食べている。
「ちょっとォ!! どうしちゃったんですかぁ!!」
 あまりに予測できない事態に、泣きそうになりながらもスマホンは叫び続ける。そこへ、オムライスを完食したアカバが顔を上げた。
「アカバさん! ほら! 聞き込みしないと!」
 チリンチリン……。
 返事をすることなく、アカバは、手元にあるベルを鳴らした。それは従業員を呼ぶ為のベルだ。
「はいっ! お坊ちゃま、なんなりとお申し付けくださいっ!」
 そうしてすぐさま、従業員がやってくると、
「コロコロココロのサンドイッチを頼む。あと、トマトジュースをもう一杯」
何の迷いもなくそう言った。
「えええっ!? ちょちょちょっとアカバさん!? どうして……」
「はいっ! かしこまりました!」
 そうして、またすぐに注文の品が運ばれ、そして、驚くべきことに、アカバは更に追加の注文を繰り返した。その間、スマホンの声は全く届いていない。
 異常事態に他ならないだろう。しかし、アカバに声が届かないとなると、スマホンとてどうにもならない。
 クロノが、ターゲットを救ってくれたら、こちらに戻ってくるであろう。そうすれば正式に転送で巻戻士本部へ帰れる。無理だった場合は、クロノの判断でリトライしてくれるだろう。
 そのいずれか、クロノの行動を待つしか出来ないのか。あくまで自分はサポートAIでしかないのか、自分一人では何も出来ないのか、ということを、スマホンは考えていた。
「……いえ」
 思い直し、スマホンは、店内の天井際をゆっくりと移動する。この店は異常だ。それは明らかなことだ。もしかしたら、ターゲットが死亡した理由も、この店にあるかも知れない。そう思い、スマホンは、従業員に見付からないよう、出来るだけ高い位置を飛びながら、キッチンへと向かう。
「何か……手がかりでも……」
 そのとき、従業員の一人が冷蔵庫を開けているところだった。そして、冷蔵庫の中からは、先程見たオムライスと全く同じ物が取り出された。全く同じ、そう、サラダが丁寧に添えられ、ケチャップで絵が描かれている。
「まさか、どうして、冷蔵庫からあんな状態のものが……!」
 そうして、更に驚くべきことに、冷蔵庫の中は空っぽだった。ならば、これ以降の料理はどうやって提供するのか? そもそも何故、出来上がった料理が冷蔵庫の中から出てくるのか。
 スマホンは、今一度、アカバの元へと戻る。そうして、アカバの身体の異変に気が付き、愕然とした。同時に、己の無力を感じずにはいられなかったのだろう。アカバのその異常な変化を見ていられず、スマホンは目を逸らした。
 時間を確認すると、ターゲット死亡時刻までもう数分であった。ターゲットの救出は、十中八九、失敗するだろう。失敗したらクロノがリトライしてくれる。早くリトライしてほしい。早くクロノと合流して、この異常事態を伝えたい。
 スマホンは、ただクロノの判断を待った。
「クロノさん……」
 目を閉じる。景色が歪んだのはその瞬間だった。



 時間は少し遡る。
 アカバと分かれた後、クロノはターゲットの後を付けながら、頭を悩ませていた。
 乱暴なことはしたくはないが……。それでも、相手が栄養失調で、その自覚がなく、そのまま死亡してしまうとなると、多少は話は違ってくるだろうか。
 そこに、目の前が病院であることに気が付いたクロノは、思い付きのまま、ターゲットを病院へと担ぎ込むことにした。多少さびれた様子ではあるものの、このあからさまな患者を、決して放っておいたりはしないだろう。
「おい!! 何だァ!? クソガキァ!! おい離せ!!」
「すみません!! この人、栄養失調で大変なんです!! 治療をお願いします!!」
「うるせぇ!! オレァ妖精さんの食事を食べたばっかだ!! 必要ねえ!!」
「暴れないでください!! あの店には、また行けばいいです!! でも、今は、とりあえず治療を……、っ……!」
 ぐぎり、と、嫌な感触を、クロノは感じた。それはさほど大きな音ではなかったが、致命的なものであることをクロノは知っている。
 押さえ付けていたターゲットの腕が折れたのだ。栄養失調なだけあって、やはり骨も、随分と脆いらしい。
 普段であれば、即座にリトライしたことであろう。しかし、栄養失調であるにも関わらず、病院での治療を暴れてまで拒むターゲット相手に、このまま衰弱死してしまうよりは、骨折の状態であれ、治療を受けた方が良いのではないか。栄養失調も、骨折も、適切な治療をすれば確実に回復する。しかし、死んでしまったらどうにもならい。だから……。
 しかし、らしくない妥協を嘲笑うように、その考えは裏目に出た。

「キャアアアア!!!」
「わぁああああああ!!!」
「誰か警察を!!」

 ターゲットは、腕が折れて尚、暴れ続けた。そうして、隠し持っていたナイフを振り回し……。



 10回目。
「スマホン!! 大変だターゲットが……!!」
「あああ!! クロノさん!! 大変です!!」
 今にも泣きそうな声で、スマホンはクロノに向かって飛び付いた。
 不安を共有したいのはクロノとて同じだったが、震えさえ見せるスマホンに、クロノは自身の言葉を飲み込んだ。
「……、……スマホン、どうしたんだ」
 飛び付いてきたスマホンを引き離そうと、クロノは手を添えようとした。しかし、手を迷わせた後、結局、手を下ろした。スマホンの、平生でない様子を、彼なりに汲み取ってのことだ。
「あ、あ、アカバさんが変なんです!! それに、あの店は異常です!!」
「そうか……」
 もうクロノにも、ある程度、目星が付いていた。ターゲットの行動は、やはり異常だ。それに、あの店の食事をやけに気に入っている様子からして……。
 クロノは、アカバに視線を遣った。しかし、アカバは……。
「あ、おい! アカバ!」
 クロノに何も告げずに走り出した。こともあろうに、フォワードを使用して。

 走って追い掛ける他ない、と、クロノはスマホンをポケットに入れてやると、例の店まで走り出す。
「アカバのことだから、何かいい方法があるのかも。オレもフォワードが使えたらよかったんだけど……」
 言ってはみたものの、先刻のスマホンの様子から察するに、そうではないのだろう。そして、スマホンも、
「きっと違います、アカバさんは……」
否定の言葉を呟いた。
 クロノのポケットから、スマホンは頭を覗かせている。スマホンには、予想が付いていた。何故、アカバがフォワードを使ったのか。それは決して、ターゲットを助けるいい方法が思い付いたからではない。
 それは……。

「おかえりなさいませ、お坊ちゃま!」
 追い掛けて店内へと入ると、アカバは店内で食事をしていた。テーブルの上には、大量の料理が並んでおり、アカバは一心不乱に食事を続けている。
「な……、アカバ……?」
「そうなんです、クロノさん、ぼくが付いていながら、こんな事態を許してしまった……」
「どういうことだスマホン」
「お坊ちゃまっ! お席にご案内しますねっ!」
 スマホンに説明を求めている最中、従業員は半ば強引にクロノを席へと案内しようとする。しかし、クロノは決して状況に飲まれなかった。これは、アカバのことを思えばこそであり、そういう意味では不幸中の幸いであろうか。
「この店の料理を食べた直後、アカバさんはおかしくなってしまったんです! ぼくの声なんか全然届いてないみたいに、食事をし続けて、それで、それで……、アカバさんは食べれば食べる程、少しずつですが痩せていってしまうんです! ああ! ほら、見てください! 手首とかなら、肉眼でも分かるはずです! 理由は全く分かりませんが、この店の料理は、食べれば食べる程、痩せてしまう効果があると判断する他ありません! クロノさん! アカバさんの食事を止めてください! そして、ターゲットの食事も……!」


続く
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