
「SCP-122-JPの問題の多いメイド喫茶」 は"mary0228"作に基づきます。
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当作品は『SCP-122-JP 問題の多いメイド喫茶』、及び、『運命の巻戻士』をクロスオーバーさせた、個人によるファンアート(パロディ作品)です。
ファンが楽しむことを目的とした作品であること、ご理解の上、閲覧を願います。
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20■■年■■月■■日、■■時■■分。
東京■■区。
「転送完了!」
AIとは思えぬ流暢で元気な声が告げる。スマホンは身体ごと辺りを見渡しながら、状況把握に努めているようだ。
「今まで色んな任務があったけど……、今回の任務も随分、不可解だよな」
抑揚のない声でそう言ったのはクロノだ。
「そうですね、救出する対象者ですが、ある日を境に急激に体重が激減、内臓や脳に異常をきたした後に死亡しています」
「何か病気とかかな」
「ですが、こちらにある情報の限りでは、これといった大きな病歴のない、寧ろ健康過ぎるくらいの方なんですよね」
「う~ん……」
「とはいえ、この時代の医療はまだまだ発展途上の分野が多くあります。何か見逃されていたのだとしたら、病院に連れていく必要があるのかも知れません」
「そうだな」
ひとしきり会話をしたところで、クロノは、赤い後ろ姿へと声を掛ける。
「アカバ? どうしたんだ?」
声を掛けられても、クロノのことなど歯牙にも掛けない様子で、アカバはきょろきょろと、町の風景を見渡している。
東京■■区。もっと詳細な場所は――
「随分、派手で難解な街並みじゃのう」
「そうだな、おれも落ち着かないし、日が暮れて警察に補導されたら厄介だよな……」
いかにもという繁華街。居酒屋やカラオケが多く立ち並び、少し奥まった道に入れば風俗店や斡旋所なんかもあるような場所。そこに更に、アニメの絵が描かれた店なんかも点在しているような、絵に描いたような繁華街だった。
「まぁ、さっさと解決すりゃ問題ないじゃろ。今回も楽勝じゃ!」
快活に笑うアカバだが、スマホンはやや呆れた顔をしている。クロノは、相変わらず何を考えているのか分からない、彼特有の表情で、アカバを見ていた。
「ご帰宅お待ちしております!」
路上で、若い女性が、いかにも可愛らしい声でチラシ配りをしている。一人、二人といったものではなく、道を少し歩けばそこかしこで、色んな衣装の女性が、色んな文句で、同様のことを行っていた。
「あ、どうも」
クロノは、差し出されるままにチラシを受け取る。
「相変わらずクロノはどんくさいのう。ぼーっとしてるから押し付けられるんじゃ」
「あんな一生懸命配ってるのに、誰も受け取ってないんだ。おれくらい受け取ろうと思って」
「任務の足手纏いにならないなら好きにせい」
十代後半くらいだろうか。路上でチラシを配る女性は皆一様に若い。とはいえ、まだ14歳のクロノには、たった数歳年上の女性が皆、随分大人に見えていた。
「それにしても、今回のターゲットはどこにおるんじゃ?」
「こう人が多いと、探すのも一苦労だな」
「この辺にいるはずなんですが……」
アカバは顔をしかめながら、クロノは無表情のまま、繁華街を歩いていたところ……。
「ワアアアアアアア!!!」
「「!!」」
叫び声に、クロノとアカバはほぼ同時に反応する。駆け出したのはクロノ方が早かったが、人混みを容赦なく掻き分けるアカバの方が現場への到着は早かった。
今回のターゲット、■■■■■が倒れていた。傍らには、ターゲットを心配したのだろう通行人が、尻もちをついて驚いていた。これは、十中八九もう……、そう思ったが、二人はターゲットに駆け寄り、呼び掛けたり、蘇生を試みようとした。……が、それが意味を成すことはなかった。
「そんな……」
遅れて追い付いたスマホンは、AIでありながら、最も顔色を悪くしていた。クロノもアカバも表情こそ大きく変えていないが、ターゲットの状態が、それ程までに異常なのだ。
「……クソ」
「だがこれで、ターゲットの正確な位置は把握できたんじゃ」
「ああ……」
アカバが前髪を掴むと、二人を囲む景色が歪んだ。
※
2回目。
アカバは大きな溜息を吐いた。
「のうスマホン、今回のターゲット■■■■■とかいう奴は、本当に助かるんか」
珍しく弱気な発言と言えた。そして、巻戻士として致命的な弱音であろう。本部にバレでもしたら、強い叱責に遭うかもしれない。
しかし、その言葉の意図を、クロノもスマホンも理解していた。それでも答えねばならない。助けられる、助けてみせる、と。
「な、何言ってるんですかアカバさん! 我々は■■■■■さんを助ける為にこの時代、この場所に来たんです。確かに大変なことではありますが、今までだって100万分の1の確率を変えてきたじゃないですか。まだ2回目です。そんな弱気に……」
弱気に……、とまで言ったものの、スマホンの語調は実に弱くなってしまった。そして落ち込んだ様子でもある。
「アカバ、お前の言いたいことは分かる。今回のターゲット、一目見ておれも驚いた。あの姿……、現在の健康状態からの回復が可能なのかどうかという程に衰弱している」
そうなのだ。
1回目で見付けたターゲットは、スマホンの情報通り、事故や事件に巻き込まれた訳ではなく、本当に突然倒れたのだろう。そして、一週間前から体重が減り続けている、という言葉の意味を、あまりに軽く受け取り過ぎていたことを省みる。
飢餓。
その二文字の他に思い当たる言葉がない程に、ターゲットは酷く痩せこけていた。元々はそうではなかったのだろう。ウエストの合わないズボンを、ベルトで無理矢理締めており、Tシャツもやけにオーバーサイズを着ているように見えた。脈を取る為にと取った腕は、今すぐにでも折れてしまうのではないかというような細さで、脈を取るのにも酷く気を遣った。
そう、ターゲットの■■■■■は、骨と皮だけ、という比喩が、比喩になっていないような身体付きをしていたのだ。
「なぁスマホン、無理を承知で聞くけど、もう少し時間を遡ることはできないか? 今回は事故や事件と違うから、死の直前に立ち会う必要はない訳だし、せめてもう数日前なら、食事を食べさせて、なんとかなるかも……」
「いえ、それが……」
「なんじゃスマホン、なんかあるんか」
二人にもっともなことを問われるも、スマホンはいかにも言い難そうだ。
「はっきり言わんかはっきり」
「それが、上層部がマザーAIを用い算出した結果としてこの時間に飛ぶことを決定しました。即ち、この時間での解決が最も適切であると上層部が決定したことになります」
「何でまた」
「それはぼくにも分かりません。ぼくには、どんなプロセスをもってその結論に至ったのか、マザーAIへのアクセス権限がありませんから……」
ショボン、といった様子で、スマホンは、無い肩を落としている。スマホンにもスマホンなりのプライドがあるのだろう。AIとしてアクセス権限がないということ、それは、Aiとしての地位や役割を明確に付きつけられているということだ。
「上が決めたというのなら、シライさんの決定でもあるってことじゃろ。しゃあない、今度はもっと早くターゲットを見付けるぞ。おいノロマのクロノ! 置いてくぞ!」
「あ、アカバ、待ってくれよ」
「こっちの道にいたから、恐らく進行方向的に……」
1回目のターゲットの位置と、倒れていた身体の向き、歩行速度を考え、クロノとアカバはターゲットを捜索する。とはいえ、ターゲットの正確な足取りを掴むのには多少の苦労を要した。
6回目。
ようやく、ターゲットが、とある店から出てくるところを発見し、すかさずクロノは声を掛ける。
「こんにちは、おれはクロノ、秘密警察特殊機動隊の者です。早速ですが、この後、あなたは突然倒れてしまいます。もし体調が悪いのならば、すぐにでも病院に行きましょう。おれたちが付き添いますし、承諾していただけるのであれば、救急車を呼ぶことだって……」
「アァ!? なんだお前らは!! オレは忙しいんだ、ガキに構ってる暇はねえ!!」
痩せこけた見た目とは裏腹に、ターゲットはドスの聞いた声でクロノたちを威嚇した。アカバは少し気分を害したようであったが、相手が相手である。これだけ明らかな栄養失調の者にぶちぎれられる程、アカバとて見境がない訳ではない。
「あんた、このままじゃと死ぬぞ」
「そうですよ、■■■■■さん、あなたもご自分で分かっているんじゃないですか。すぐにでも食事を……」
「メシなら今、帰宅して食べたところだ!! クソガキが!! 付いてきたら容赦しないぞ!!」
ターゲットはそう吐き捨てると、怒ったままその場をあとにしてしまった。追い掛けるしかないのだが、ターゲットの言動はあまりに不可解だ。
「食事……? とてもまともな食事をしているようには見えないけど……」
「ですね、あの痩せ方は異常です。その上、あの方はご自身の健康状態が異常であることに気が付いていないようです。これはある意味、とても難しい任務かも知れません」
「どうすんじゃ、追い掛けるか? コンビニならその辺にいくらでもあるし、何か適当に買ってきて、とっ捕まえて無理矢理にでも」
今回に関しては、流石にアカバも遠慮がちな発想になっているようだ。これがいつもなら、とっくにターゲットを捕捉して、縛り付けでもしていたことだろう。
「無理矢理は駄目だ。説得して食事をさせるなり、病院に連れていくなりしよう。話をすればきっと」
※
7回目。
今度は迷わずに店まで辿り着き、ターゲットが店から出てくるのを待ち伏せることが出来た。こういうとき、繁華街はいい。その辺でたむろしていても、何ら怪しまれないのだから。
「にしても、妙ちくりんな店じゃのう。なになに、ハートフルカフェ……? 街並みからも妙に浮いとるし、よう分からん絵がいっぱい描いてあって、どんな店か分からんな」
「外観から察するに、この店は恐らく、コンセプトカフェでしょうね」
店を見上げて独り言ちるアカバに、スマホンが、自分の役目だ、と言わんばかりに、スイっとアカバの横を飛ぶ。そんなスマホンに視線を向け、
「コンセプトカフェ?」
クロノが疑問を口にした。
「はい、コンセプトカフェ、略してコンカフェとも言います。飲食を提供することは一般的な喫茶店と変わりありませんが、その特徴は、内装や、スタッフの制服、来店客をもてなす際の文言にあります。見たところ、こちらの店舗は、いわゆるメイドカフェのようですね」
「メイド……? メイドって、この看板に描かれているような、漫画とかに出てくる職業か?」
クロノは首を傾げながら、店舗前に置かれた看板を見遣る。
「そうです。恐らくですが、スタッフはメイド服風の制服を着用し、来店客のことを主人として接客するのでしょう。この時代、一部地域で顕著に流行した店舗形態の一つですね」
「ふぅん……? 分かったような、分からんような」
「あ、ターゲットが出てきたぞ」
カララン、カララン、と、扉が開くと共に、高い音のベルが鳴った。ニコニコ顔の若い女性は、フレンチメイドをモチーフとした制服を着ている。先刻のスマホンの言う通りだった。
「ご主人さま! 行ってらっしゃいませ! 妖精たちは、いつでもご主人さまのご帰宅をお待ちいたしておりますっ!」
「ああ、××××ちゃん、またすぐ帰ってくるよ。××××ちゃんのハートフル魔法で作ったコロコロココロのサンドイッチは最高だからな」
「ありがとうございますご主人さまっ!」
遠巻きにそんなやりとりを聞いて、やはりクロノたちは疑念を感じる。スマホンの説明、店舗スタッフとのやり取り。どう考えても、ターゲットは食事を摂っている筈なのだが……。
ターゲットは、機嫌良さそうにニコニコ笑顔で歩き出す。
「クロノ、なんか良い説得は思い付いたんか」
「全然」
「はぁ……?」
「けど、とにかく色々話してみるしかないだろ。何度か話せばきっと、原因とかも分かってくるはずだ。……あの!」
「アァ!? 何だガキ!」
先刻までのニコニコ笑顔はどこへやら。ターゲットは前回と同じように、凄まじい剣幕で怒り出した。これもまた、ターゲットの異常な様子に拍車を掛けていた。けれども、それに怯むクロノではない。
「実はおれ! 先日買った宝くじが当たったんです! 一等前後賞です、すごいでしょう! だからお金が余っていて、誰かに食事を奢りたい気分なんです。そこに丁度あなたが通り掛かった! あなたはとてもラッキーです! 寿司でも、焼肉でも、高級フレンチや中華のコースでも。何でも……」
何の策もない、と言ったクロノだったが、咄嗟に何か出てくるのがクロノである。スマホンも、面白い切り口だ、と思いながら見ていたが、結果は。
「っせぇな!! ガキが!! オレァ、今、帰宅してメシを済ませたところなんだ!! 訳分かんねぇこと言ってっと、ぶっ飛ばすぞ!!」
何一つ変わらなかった。
ターゲットは、やはり凄まじい剣幕でクロノを怒鳴り付け、脅迫めいた言葉を吐き捨て、去ってしまった。
「駄目だ……、全く話を聞いてもらえない。さっきまであんなに機嫌良さそうだったのに」
「それに、焼肉でも寿司でも奢る言うとるのにのう。あの店のメシがそんなにうまいんか?」
「仕方ない、こうなったら……」
※
8回目。
クロノのとんでもない思い付きは、いつも突拍子もない。
どこで調達してきたのか、クロノは二着のメイド服を手にしていた。片方をアカバへと渡す。
「一応、聞くんじゃが……」
聞かずとも、クロノが何をしようとしているか等、目に見えたこと。
「ご帰宅、お待ちしておりますっ!」
クロノとアカバは、安価なメイド服に身を包み、先程、受け取ったチラシを手に、ターゲットに近寄った。ターゲットは、メイドカフェがよっぽど好きなのだろう、と踏んでのことだったのだが……。
「新装開店のメイドカフェ、ご帰宅お待ちしておりますわ!」
「クロノさんは、メイドカフェへの理解が足りてないみたいですね……」
スマホンも、アカバも、あきれ顔である。
そっと、ターゲットへとチラシを差し出すが……。
「ご主人様、あのっ!」
ターゲットはまるで無視だった。
「どういうことだ……、■■■■■さんは、メイドカフェが好きなんじゃないのか……?」
「クロノさん、本気で言ってます?」
「わしも、クロノのこういうところにだけは勝てる気がせん」
クロノはいたく、真剣な顔をしていた。当然、8回目も失敗である。
続く
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